作家のつぶやき
 言葉は生き物です。時代どころか日々変わっています。若者言葉の寿命は短く、流行語は更に短い寿命で消えていきます。
 この言葉の変化。作家として活動を続けていると無関心ではいられません。
 作家として物語の風化を遅らせるため、可能な限り若者言葉やカタカナ言葉を避けています。これらは変わりやすい言葉の代表であるからです。もちろん流行語の使用は避けています。これは一過性で、半年後には消えている可能性が高いものですから。
 
 ところが新語でも流行語でもない言葉が、時に変わってしまう時があります。
  @技術革新で、それまで使われていたものが一夜にして過去のものになった。(例:電話ボックス、フロッピーディスク)
  A国際情勢の変化や市民運動の結果、いきなり呼び方を改めた。(例:エアーズロック(豪)→ウルル、マッキンリー(米)→デナリ)
  Bマスコミや財界が情報操作のために言葉を言い換えた。(例:少女売春→援助交際、興信所→調査会社)
  C業界がイメージ戦略で、呼び方をオシャレなものやカッコイイものに変えた。(例:背広→スーツ、筆箱→ペンケース)
  D言葉狩りで、いきなり使用禁止や言い換え推奨の対象にされた。
 @に関しては、年配の人でも身の回りで起きている変化なので気づくでしょう。
 Aはニュースを聞いていれば国名や地名の言い替えや合併分裂などが報じられるので、よほどニュースに無関心でなければ触れる話題です。
 厄介なのがB〜Dです。BCは関心の薄い分野では言葉の変化に気づかず、長く使い続けるでしょう。
 そしてDは、一般人にはまったく関係がありませんので、変化には気づきづらいでしょう。
 
 ちなみに書籍は書いている時と出版される時が、だいたい数か月〜1年近くズレます。その間に言葉が変わってしまうことも珍しくありません。
 まして、読者にとっては読む時が「今」であり、よほど古い作品でない限り「作家がいつ書いたか」は気にしないでしょう。そこに消えていった言葉が出てくると、イメージ的に大きなマイナスです。
 ホント、言葉の宿命とはいえ悩ましいものです。
 余談ながら私が経験したのは@のケースだけで大きなものが2回です。
 1回目は新人賞への応募からデビューまでの2年間。その間にPHSとポケットベルが消え、携帯電話に置き替わってました。
 2回目は2012年。マスコミがこぞってタブレット端末の呼び方を「タブ端」と縮めて使ったのですが、まったく定着しませんでした。
 
 なお、概念が消えて日常的に使われなくなっただけの言葉に関しては、ここでは死語として扱わないことにします。これは別の言葉に起き替わったわけではありませんので……。
言葉狩り
 1970年代の後半より始まり、徐々に悪化している文化破壊です。
 本来はまったく問題ないのに、曲解して言葉狩りのターゲットにされた言葉も珍しくありません。これに関しては調べてみるとチェックする人が、何かを勘違いして不適切語と判断したものも少なくありませんでした。
 それに加えて困るのは、本来は「あってはならないもの」ということで、公式には問題用語の一覧表は存在しないことになってます。ネット上にある一覧は、それでは困ると思った有志が独自で集めたものです。
 テレビで「不適切な発言が」と詫びつつ、それが「何か」にまったく言及しない単語です。その多くは不適切語とは気づかないような単語です。
 当然、作家向けにアナウンスされることもないため、あとから言われて苦労させられます。
 
 なお、言葉狩りで噛みついてくる人は、その言葉を廃止させようとする圧力団体より、事なかれ主義で指摘してくる出版や報道関係者である場合が多いと感じています。中でも1998年からの約10年間は過剰な自主規制の時代でした。