詭弁学概論?
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着手:2003年5月12日
新規:2005年2月24日
追記:2005年5月21日
加筆:2007年7月28日
補足:2009年9月1日
追記:2009年9月1日
 
世の中の詭弁家
 昔から国会やテレビの政治討論番組で、非常に奇妙な詭弁が取り交わされます。
 更にインターネットが普及すると、あちこちで詭弁家を見かけるようになります。もちろん、遭遇率も増えます。
 BBSやチャットに何かを書き込んだら、それが元で詭弁に巻き込まれた経験のある人も多いでしょう。
 私も過去『ヘッポコ新聞コラム』に書きましたけど、気になる書き込みに意見した結果、激しい詭弁の応酬に巻き込まれることが多々あります。
 現場の意見や業界の裏話を書き込んでも、それをワナビ(一般には〜になりたい人の意味:ネットだと〜のフリをする人の意味も)の妄想と非難された人も多いでしょう。
 小説家の立場からは、明らかに作品を読んでない人に《100%その人の想像した内容や思い込み》で非難されていると、何か言ってやりたくなります。実際に文句を書き込んで、激しい言い合いになった小説家さんもけっこういるようです。中には相手が執念深かったため、その小説家さんの本人サイトを荒らされてBBSを封鎖するハメになったという話も聞きます。
 
 このように世の中に蔓延しつつある(?)詭弁について、ちょこっと考えてみようと思います。
 
こいつは○○だ(レッテル貼り)
 相手を攻撃する際に、悪意のこもったレッテルを貼り付ける行為は、詭弁の定番ではないでしょうか。
 気にくわない意見を出した相手に、妙なレッテルを貼って追い出そうというのは、かなり幼稚な対応に思えるのですけどね。
 
 例えば、単なる否定的な意見の相手に「こいつは××が△△のようなことを言って……」とか「こいつは◇◇が前提で……」と反論する言葉です。明確な根拠もなく卑怯者呼ばわりするのも、この種のレッテル貼りです。
 こういう相手に誤字・脱字ないし言葉の誤用、ほかに曖昧さの残る記述は、格好の攻撃材料を与えたことになります。
 訂正すれば、その内容によって「間違いを認めた」「議論をすり替えた」などになりますし、間違えが専門用語だと「知識がいい加減」などのレッテルを貼ってきます。
 
「参加者全員が、それを知ってるとは限らないよ」
「おまえは参加者を無知呼ばわりして、○○を悪人にしたいのか?」
 ただ疑問を出しただけ。ただ意見から漏れた一部の問題を指摘しただけ。にもかかわらず、いかにも意見のすべてを非難したようなレッテルを貼られることがあります。
 
 レッテル貼りで有名(?)なところといえば、やはりテレビの討論番組でしょう。
 中でも「もしも、何処かの国が日本に攻めてきたら?」という問いかけが、一番悪質な質問でしょうか。
「攻め込まれたら闘うしかない」と答えれば『右翼』『タカ派』のレッテルを貼ります。
「それでも闘わない」と答えれば『左翼』『非国民』『空想主義』のレッテルが貼られます。
「そうならないように、前もって話し合いで」とかわそうとすれば『思考放棄』のレッテルが貼られます。
 つまり、どう答えても、相手にレッテルを貼るイヤな質問です。ねぇ、○原○一郎さん。
 
おまえは間違ってる(でも正解を示さない)
 どの部分が間違っているのかを示さず、一方的に否定する詭弁家がいます。
 情報源を明らかにした意見にも、「解釈が間違ってる」とか「ソースが偏ってる」というように、自分の側の情報源を示さずに攻撃するのみの詭弁家もいます。
 中には「都合の良いページを貼るな」と初めから情報源を否定し、意見を拒絶する人もいます。
 もっと高度な詭弁になると、揚げ足取りから相手が極論を言ってるように思わせ、その極論が間違いだという論調で攻撃をしてくる詭弁家もいます。
 ところが、間違っていると主張するのなら正しいと思われる意見や情報源を示すべきですが、詭弁家たちは絶対と言って良いほど自分が思う正解を示しません。
 まあ、たまぁ〜にトンデモ系のページを貼って得意げになる詭弁家と出会うと、その涙ぐましさが非常に微笑ましいんですけどね。(苦笑)
 
 これと似た攻撃の仕方に「○○から勉強し直せ」があります。これも一切の正解を示さず、相手が間違っていることを強調する悪質な攻撃です。中には間違ったことを言いながら、相手に「勉強し直せ」などと言い放つ図々しい人もいますけどね。
 
 こういう詭弁は、意外と世の中に多く見られます。一例を挙げれば、
「日本の商習慣は閉鎖的でアンフェアである」
 アメリカ人の企業経営者が、(好んで?)頻繁に口にする言葉です。
 では何が閉鎖的でアンフェアなのか。実は彼らの思い込みなので、何も説明できません。
 日本国内でも東京、大阪、名古屋などで少しずつ商習慣が違います。これで国が違えば、当然、商習慣も大きく変わってきます。
 自分の知っている商習慣と違うから閉鎖的でアンフェアなのだという思い込みです。
 しかし彼らは日本の商習慣を勉強してないので、どこがアンフェアなのかを説明できるはずがありません。
 まさに正解を示さず、相手を非難するだけの詭弁です。
 
 また、これと似た詭弁に「知らないやつは黙ってろ」というものがあります。
 もちろん、これに対して事実を求めると「部外者に答える義務はない」とか、この後で触れる「関係者になれば分かる」のような答えが返ってきます。
 事実を示さずに相手を否定した上で議論を拒む。ある意味、卑劣な物の言い方です。
 
事実はこうなっているんだ(そんなこと滅多にないのに……)
 滅多にない実例や例外の事例を、さも普遍的な事実のように騙る詭弁があります。また一面的な物の見方で押し切る詭弁もあります。
「日本人は今もちょんまげを結っている」(確かに、そういう人もいますけど……)
「英語は少ない単語の数で表現できるので、国際語に最適です」(熟語や言い回しの数で比べたら、日本語と大差ないかと)
「今は地球温暖化で、歴史上類がないほど暑い時代です」(ギリシャ・縄文時代ほど昔でなくても、平安時代の方が暑いよなぁ)
「今は人類史上かつてないほど急激に炭酸ガスが増えて」(奈良時代後半「大仏温暖期」の方が、炭酸ガスの急増ぶりも、温度の上昇ぶりも上回ってます)
 
 この例が適当かどうか、多少問題があるかもしれません。
 その例というのは、実は恐竜の絶滅に関する話です。
 専門に研究している人たちは、恐竜が一時に絶滅したのではなく、白亜紀後期の9000万年前から徐々に数が減っていることを知っています。そして、時代が白亜紀から第三紀に変わっても、恐竜以外の多くの生き物が絶滅もせず継続して生き続けていたことが判明しています。この時代の大絶滅は恐竜と魚類に対してであることが、化石の記録からほぼ明確となっています。そして最近マスコミを賑わしている隕石衝突説ですが、ほとんど影響がないことも分かってきています。発見された隕石の痕跡が直径2〜3キロであるのに、どういうわけか10キロ説が独り歩きしています。仮に10キロの隕石が落ちたとしても、その被害の大きさは粉塵・津波共に1883年に起こったインドネシアのクラカトア火山の規模に近いことが分かってきています。
 そういうこともあり、恐竜を研究する地質学者の間では、最初に隕石衝突説の出た1980年の頃も今も隕石で絶滅したという説には懐疑的に感じている方が大勢います。
 にもかかわらず、どうしてテレビの教養番組では隕石衝突説が幅を利かせているのでしょうか。結論を先に言えば、隕石で絶滅した方が映像的に派手なためです。つまり番組を作る人にとって、どうしても見栄えの良い説に心が動いてしまうためです。NHKの科学特番で、時々良く確かめもせず、つい派手なトンデモ説を持ってきてしまうのも、このためでしょう。
 と、ここまで背景の説明をして、話を詭弁に戻しましょう。
 このような学術的な話をしているBBSに、テレビの隕石衝突説しか知らない人が入ってきて議論を引っ掻き回す例を時々見かけます。実際に研究している人たちから見れば、隕石衝突説は数多くある絶滅説の中の一つでトンデモではないけど疑わしさの多い説。一方、研究家ではないただの恐竜好きでありながら本を読まずに恐竜のテレビ番組やDVDで済ませている人には、隕石衝突説は単なる説ではなくそれしか知らないために唯一絶対の真実に近い説です。
 まあ、一面的な物の見方だけで相手に意見するという点では、詭弁と大差ないでしょうか。
 
補足:2009年9月1日
 白亜紀末に落ちた隕石の大きさですが、その後の調査でクレーターの大きさが直径300kmであったことがわかり、これにより落ちた隕石の大きさも15km〜30kmもの大きさになると訂正されました。これだけの大きさがあれば多くの生物が絶滅する可能性が高くなります。
 なお、クレーターの大きさは訂正されたものの、落ちた隕石の大きさは直径10kmのまま変わっていません。富士山やエベレストの高さではありませんが、数字が独り歩きしているために世間向けには変えられなくなったのでしょうか。
 
ここはこうだから事実はこうなるはずだ(臆測を事実として結論を導く)
 当サイトBBSの[3126](2004.5)に「北朝鮮では食料事情が悪化し、麺にジャガイモを混ぜている」という報道があったことを書きました。もちろん、報道した人は「冷麺」の原料を知らなかったのでしょう。
 北朝鮮の食料事情が深刻なのは事実ですが、だから麺にジャガイモを混ぜているという臆測は、報道する者の姿勢として問題があります。
 
 これは、ある掲示板で見付けた、分数に関する詭弁です。
「物の大きさや重さを正確に測ることはできない。必ず誤差を含んでいる」(これは事実です)
「どうせ世の中には正確な数字なんてないんだ。分数にだって誤差はあるだろ。わざわざ分数を使う意味はない」(ここで臆測が入ります)
「分数の計算なんて面倒なことはやめて小数を使えば、全部電卓で済むじゃないか」(そして論理がすり替えられました)
 
 富士見ファンタジア文庫では最大の成功をしたスレイヤーズが、同時にレーベル作家を語られる上で最大の呪縛になっています。
 要するに、富士見ファンタジア文庫の作品=スレイヤーズの亜種という先入観ですね。
 まあ、先入観そのものは仕方ないのですが、それで分かったように臆測記事を書かれると、それは困ったことになります。
 以前、私のデビュー作となった気象精霊記「異常気象を起こそうとする敵と闘い、スレイヤーズばりのドタバタ喜劇で天空の平和を守る物語」と紹介した記事を見た時は、あまりにもヒドイ内容にめまいを起こしたというか、呆れて何も言えなくなったというか……。
 
知り合いの○○が言ってた(そんな人は世の中にいません)
 これは自分の意見が支持されているように装ったり、権威付けのために使われる詭弁です。
 私の作品(特に気象精霊記)も、よくこの手の物言いで非難されます。
「知り合いの気象予報士が言ってたけど、爆弾低気圧なんてないって」(インターネット上で見付けました)
 気象関係の用語事典を開けば、梅雨前線の次ぐらいに載っている項目です。気象予報士ならば知らない方がどうかしてます。(つまり、明らかな詭弁です)
 ただし、2巻に書いた爆弾低気圧の定義は、今は変わっています。
   2巻当時:緯度60度で24時間に24hPa以上の気圧低下があった低気圧。東京付近の緯度なら16hPa以上の気圧低下したもの。
   現在  :24時間に24hPa以上気圧低下した低気圧。
 古い定義を知らない予報士の方が2巻の記述を見た場合、「おや?」と思われるのは仕方ないでしょう。
 他にも作中で「観測史上最大の台風は直径3200キロ」と書いた台風が定義変更で「直径2400キロの台風」となり、今では最大ですらなくなったものもあります。
 このあたりの定義の変更ですが、さすがに専門家ではないのでリアルタイムで追い掛けられません。
 
 また、これと似たような詭弁に「○○法によれば〜」という法律による権威付けもあります。
 ただし、「○○法によれば〜」と言っている人の方が正しくて、周囲の人が詳しくないことを良いことに勝手な解釈で反論する詭弁家もいます。(第何条何項まで具体的っぽく書いて反論してて、実際に調べたら、その項は別の内容だったなんてことが:笑)
 このような議論ではどちらが詭弁家なのか、判断が難しくなります。日本では法解釈が学閥によって微妙に違う部分が多々あるそうなので、双方とも学閥内で習った法解釈で議論しているだけかもしれません。こうなると本格的に法律を学んだ経験のない人間には、よほど稚拙な詭弁でない限り、議論の途中では見分けが付かないでしょう。
 まあ、たいていの場合、知識を持って発言している人ならば、議論する相手が知識を持って論じているか、それとも詭弁を使っているのかは、すぐに気付くでしょう。それでカッとなって熱くなる人もいますが、たぶん多くの人は論ずるだけ無駄と感じて、あるいは呆れて議論を降りる方を選ぶと思います。
 なので、議論の最後に勝利宣言ないし悪者扱い(レッテル貼り)をするのは、ほぼ詭弁家の側に間違いないでしょう。論理的に話す人が、最後に悪態を吐くとは思いたくない……という気持ちもありますけど。
 
余談
 日本では立場の強い者が身勝手な解釈で法律を持ち出し、恐喝まがいの行為をする例が多々あります。特に既得権を守るために、そんな法解釈や慣例などないのに、それを押し付けようとする例も見られるほどです。
 それと法律が持ち出される議論で時々見られるのですが、間違いを指摘された人が奇妙な法解釈を持ち出して反論することがあります。間違いを指摘されて悔しいという気持ちは分かりますが、それで怪しい法解釈で反論し始めるのは開いた口が塞がりませんね。
 
じゃあ、それは××なのか?(論理のすり替え)
 まったく見当違いなものを持ち出して、相手の主張を崩そうとする卑劣な物言いもあります。
 例えば地方の名産品農地を潰して地方国際空港を作ろうとしている某県知事の「(県の)経済発展が遅れてもいいのか?」などが良い例です。まあ、空港が完成したところで他県にある大型の国際空港へ行くのと時間的な差がないため、素人目にも名産品の農地を潰しただけの無駄な空港だと思いますけど。
 
「日常生活でも、数学が役立つって? じゃあ、おまえは洗濯しながら微分計算してるんだろうな?」
 なんか、この屁理屈の方が可愛いというか何というか……。
 
〜すれば分かる(さて、それが可能かどうか……)
 月と水星と火星、どれが一番小さいんでしたっけ?
 などという質問には、誰でも「そんなことは調べれば分かるだろ!」と答えるでしょう。
 無知や怠慢が原因で尋ねたり議論してくる相手には、それは当然の対応です。
 ところが「きみも医者になれば分かる」とか「アフリカに行けば分かる」のような答えは、はたして答え方として正しいものでしょうか?
 もちろん、これは強制的に相手の質問を拒む悪質な物言いです。
「作家の生活は気楽ですか?」「なれば分かるよ」(汗)
 
 これと同類の相手を拒む物言いに、「ソース(情報源)を示せ」があります。
 ただし、これは感想や実感に関する発言に対してです。「こんな気がする」に「そう感じるソースを示せ」と言われても、答えられるわけがありませんよね。
 
 また、似たような詭弁に「〜しないからだ」という無責任なべき論もあります。
 仕事がなくて生活に困ってる人に「仕事をしないからだ」と、さも当然のように言う人がいますけど、なぜ仕事ができないかによっては詭弁でしかありません。
 中でも「〜しなかったから」と後知恵で非難する詭弁は、たぶん本人も自分が詭弁を使っている自覚が薄いでしょう。
 バブルの頃に「今、株や土地を手に買わないと損をする。借金をしてでも買うべきだ」と言っていた経済評論家が、バブル崩壊後、手のひらを返したように「今の不況はバブルの頃、大企業や銀行が社会の雰囲気に流されて、自重しなかった(株や土地に手を出した)ことが原因です」と反省の弁もなく言ってるのを見ると、まさに後知恵詭弁の典型です。
 
私は不勉強ですので御教授ください(いきなり卑屈に、その背景にあるのは)
 突然、卑屈な態度になって、相手に考えを言わせようとする人がいます。
 実はこれ、かなり悪質な詭弁家の使う一つのパターンです。
 
 誘いに乗って答えた場合。答えを悪意のある解釈でとらえて、何が何でも揚げ足取りをしてきます。
 誘いを無視した場合。何も知らないのにとか、何も考えてないの偉そうなことを言うなとか、とにかく勝ち誇ったように小馬鹿にしてきます。
 つまり、この言葉が出た時点で、詭弁家は相手を貶める気が満々なわけです。
 
 余談ながらテレビ番組の討論でこの言葉が出てくると、それを言い出す人はたいていその道の専門家なので、「不勉強」という言葉が卑屈に加えて相手を見下した嫌味のように感じます。
 
わからんバカは死んでくれ(意見された途端、詭弁家に変身)
 最初から詭弁家だったわけではなく、何かの拍子に逆ギレして詭弁家に豹変する例はよくあります。
 コミュニケーション能力の低い人が独りよがりな意見を注意されて逆上……と考えてしまうのは、私の偏見でしょうか?
 他にも認めたくない事実を突き付けられて、そこから詭弁家に豹変する例もあります。
 詭弁も自己弁護に終始するなら可愛い部類。相手の見えないインターネットでは虚勢心が働くので、たちまちケンカ腰になってBBSやチャットを荒らす例も珍しくありません。乱暴な言葉を書き込んでくるのも、こういう人の特徴です。
 しかも根っからの詭弁家(俗に煽りと言われる人たちです)とは違い、逆ギレして詭弁家になった人の中には執念深く粘着する人がいるので厄介です。
 最初に挙げた小説家に意見されて、その本人のBBSまで荒らしに行くという人も、まさに逆ギレして豹変した詭弁家の典型です。
 
おまえ自分が集計したように言うな(何が何でも揚げ足取り)
 自分の意見とは異なる意見を、徹底的に排除したがる人がいます。そういう人は、相手の意見よりも言葉じりを掴んで、揚げ足取りの材料を虎視眈々と狙っています。
「自分で集計したわけじゃないのに、偉そうに語るな!」「歴史の真実だ? おまえいくつだ。目撃したのか?」
 子供のケンカに「いつ言ったよ。何月何日の何時何分何秒だ?」という低レベルなセリフがありますけど、それとほとんど大差ありません。
 
 見付けた面白い揚げ足取りに、
   甲「どんな集団にも、必ず差別する人はいる。説得をしてもダメなら、もう無視するしかないよ」
   乙「無視だって? そーいうあんたも、他人を見下す差別主義者じゃねえか」
 というものがありました。
 
どうせ世間知らずで就職もできないプーだろ(そして最後は人格攻撃)
 いろいろな経緯を辿っても、詭弁家が最後に行なうのは共通して人格攻撃です。
 相手を話の通じない人格破綻者と見做して、議論を終わりにしたい気持ちの表われなのか。ギリシャ時代の弁論術に書かれているように、議論に負けそうになったら相手の人格を攻撃して聴衆の同情を買おうとしているのか。
 現代の裁判でも最後の最後は被告や原告の人格攻撃に終始するそうですから、これは人間の本能に根差した案外根の深い問題のようです。
 国会などの政治の場だと、もう言わずもがなですけど。
 
 近代の弁論術の中に「相手を人格攻撃して怒らせ、それで口を滑らせて言質を取れ」という手法がありますけど、それで意図的に人格攻撃しているとしたら、それはそれで悪意のある詭弁ですよね。
 

どちらも詭弁を使ってないのに……(思い込みが詭弁を招く?)
 ネット上では相手の素性が分かりません。そのため相手に対して疑心暗鬼になり、相手が詭弁を放っているわけでもないのに、自分とは異なる意見を述べた相手に対して詭弁家だと思い込む人もいるようです。
 ここからはどちらかが詭弁を放ったのではなく、一方が相手を詭弁家だと思い込む現象を挙げてみます。
 
事実を知らないやつが、偉そうに言うな!(詭弁とは違うレッテル貼り)
 自分の知識とは異なることを言った相手を詭弁家だと思い込む例があります。
 中でも事実を間違って憶えている人(思い込んでいる人)に、別の経験者が訂正意見を述べてきた時に起こりやすいのでしょうか。
 経験や近い場所で仕事をしているということから、または一部(全体ではない)を良く知っていることから、自分を事情通・業界通だと錯覚している人が陥りやすい状態だと思います。
 例として、ある試験の勉強が《過去の事例の丸暗記》だと思っているAくんと、《基本を徹底的に勉強》したBくんのBBSでのやり取りを想定してみましょう。
   Aくん「暗記がたくさんで大変だ。合格する人たちって人間じゃない」
   Bくん「ぼくは暗記なんかしてないよ。それに暗記に頼らなくても、ちゃんと勉強すれば受かるよ」
   Aくん「あれだけたくさんの問題を、暗記しないで受かるわけないだろ。ウソ言うな」
   Bくん「ウソなんか言ってないよ。基本をしっかり押さえれば、あとは応用だよ」
   Aくん「おまえ試験を受けてないだろ。試験問題を見ろ。知らないやつが勝手なこと言うな」
 間違いに気付いてないAくんは、Bくんの合格談が綺麗事にしか思えませんでした。そこでAくんの中で《綺麗事=絵空事=ウソ》という思い込みが働き、Bくんを試験を受けたこともない詭弁家と判断するに至ります。他にAくんのように勘違いでなかなか合格できない人が会話に加わろうものなら、たちまち自分たちの勘違いが仲間の存在によって逆に強化され、その後はBくんに対して「夢想家」とか「試験に幻想を持ってる愚か者」とバカにする話題に花が咲くでしょう。
 まあ、ネット上では相手の素性が分からないのですから、こういう流れになることは珍しくありませんね。
 
 私の身近なところでは小説家の卵たちの会話で、似たような場面を体験しますね。
 小説家になるにはコネが必要で、自分が最終選考に残れないのはコネがないからと思い込んでいる人。あるいは小説家は文章力がすべてだと思い込んでいる人。そういう人の会話に「コネに意味はない」「文章力よりストーリー性」のような意見を挟もうものなら、たちまち「業界の実状を知らないやつが、いい加減なことを言うな!」と意見を拒絶されます。
 これで不快な思いをした小説家さんは多いようです。私も詭弁家扱いを受けましたしね。(苦笑)
 
 こうした思い込みの産物でしょうか。どこかのBBSの書き込みがコピーされ、書き込んだ相手の与り知らぬ所でバカにする行為が見受けられます。人間的に見て、かなり卑劣な行為ですね。
 もっとも、その結果撃墜される(逆にそのBBSに書き込んでいた人によって、コピーした人の無知ぶりをバカにされる)例もありますけど……。
   Cくん「>シャンペンはフランスじゃなくて、スコットランドで発明されたんだよ。
       こいつ、バカだよな。ドンジョバンニの発明という有名な話を知らないみたいだ」
   Dくん「ドンジョバンニの発明って、そんなフランスの作り話を信じてるヤツがいるのか」
   Eくん「フランスは何でも自分たちの発明にしたがる悪いクセがあるからね」
   Fくん「ワインはボルドー地方が始まりって、ギリシャ時代からあるだろ!
       白カビチーズもカマンベールが始まりって、少なくとも北欧の白カビチーズはカマンベールより二世紀以上古いぞ(笑)」
(註:内容は管理人による創作です)
 まさに『人を呪わば穴二つ』ですね。
 
もっと勉強してから出直してこい!(中途半端な知識が、事実を見失う)
 最近は多数の入門読本(雑学読本)が出回っています。入門読本は素人向けに書かれているため読みやすく、基礎を学ぶには非常に便利です。
 ところが、この読みやすいところがクセ者です。読みやすい、分かりやすいのために、つい「本当に分かった」と錯覚する人が出てくるからです。あくまでも入門読本ですから当然その先があるのですが、分かったと思い込んだままの人が多いのが実態ですね。まさに中途半端な知識、いわゆる「知の欺瞞」の状態になるわけです。(最悪の「知の欺瞞」は、知りもしないのにハッタリで単語を並べることですけど……)
 
 私がこの手の洗礼を受けたのは、某巨大掲示板とは違うとある理系のBBSで『乗り物がカーブを曲がる時に中の空気はどう動くか』という話題が出た時の議論です。
 多くの人が遠心力でカーブの外側に向かって流れると回答していました。もちろん遠心力も働きますが、重力と合成されて力学的な「下」方向が変わるだけです。これは初心者が間違える、物理学の初歩的な間違いです。
 しばらくして議論が詰まったようなので「右に曲がる時は空気は時計回り、左に曲がる時は反時計回りに流れる」と書き込んでみたところ、「そんな動きをするものか!」という書き込みが返ってきました。
 そこで「回転運動系だから、コリオリの力が働いて……」と理由を説明したところ、「カーブを曲がるのは回転運動じゃない」「コリオリの力という言葉を知って、使ってみたいだけだろ?」という非難が出て、中には釣り師(ウソで議論を煽って場を混乱させたり、相手を困らせたり怒らせて反応を楽しむ下卑た人)扱いをする人まで……。この時点で議論に参加していた人の中に、少なくとも高校の物理2以上の力学を学んだ人はいないと直感しました。と言う以前に、物理1の理解度すら怪しいと言うか……。
 まあ、最後に「もっと物理学を勉強してから出直してこい」と言われたのには閉口しましたね。
 なお、この動きは水を入れたコップを持って、体を左右にひねってみれば確かめられます。体をひねった時、コップの中はどう動いてますか?
 
追記:2005年5月21日
 性懲りもなく、また同じ理系のBBSで非難を食らっちゃいました。今度は量子力学です。
 頼む、量子力学はオカルトじゃないんだ。なのに「あれは確率的な手法で」と書き込んだ私に「電波は帰れ」って……。
 有意義に理系話してたこちらが、どうして追い出されなきゃならないのか……。orz
 
そんなわけねーだろ。ウソ言うな!(事実確認の前に拒否)
 これも詭弁とは違いますが、一方にとって信じがたい情報に触れた時、《ネット情報=ウソが多い》という思い込みから、事実確認をするどころか即座に相手を詭弁家・ウソツキと思って悪態を吐く人がいます。
 こういう場合、相手は事実を言っているのですから、当然、多くの場合反論します。それにウソだと思い込んでいる側が熱くなって、相手を散々非難する状況が多いように思います。
 まあ、たまに頭が冷えた後、自分の無知に気付いて謝罪する人がいますけど、これはほとんど少数派でしょうか。
 
 この種の事実否定の話題で、興味深いやり取り(私にとって……ですけど:汗)を見付けましたので引用します。
 あるBBSで見付けた北陸新幹線に関する書き込みに「相継ぐ路線変更で高校が移転と建て替えを繰り返され、トンネルも何本も掘り直され、橋脚も点々……」という記事を見て、ひょっとして親戚のいる某市の話では……と思いました。ところが、その話を執拗にウソツキ呼ばわりしていた人がいました。それも「朝○新聞のウソ記事を真に受けた浅い知識」と揶揄されたところで、書き込んだ人は反論を諦めたようです……。本当にそういう記事があったのかは知りませんが……。
 さて、この書き込みに関して、親戚のいる某市であると仮定して事実確認をしてみましょう。
 最初の路線計画(バブル前)では、在来線と並行に路線が計画されていました。その計画に合わせて、新幹線用のトンネルがすでに掘られていました。
 バブル期の地価高騰で、路線が大きく見直されました。某市は在来線に沿って市街地が細長く形成されています。そこを在来線と並行に路線を計画したら、地価高騰の煽りをまともに喰らいます。そこで市街地を斜めに突っ切るように路線変更されました。更に用地買収も少なくて済むように、できるだけ公有地の多い路線が選ばれました。その結果、路線上にあった公立病院や公立高校が移転し建て直されることに決まり、これにより高校は郊外の新興住宅地のある地域へ移転されます。また、それに伴って先行して掘っていたトンネルは廃棄され、新路線に合わせたトンネル工事が始まります。
 バブル崩壊後、立ち退きを求められた住民との間で衝突が起こります。ウワサでは地価がもっと高騰してから立ち退こうとしてた住人が、バブル崩壊で期待通りの立ち退き料が得られず、せめて最初の提示額だけでもせしめようとしたためだとか。そこで再度の路線変更が行なわれ、在来線の駅を使う予定から郊外に新駅を造る計画に変わります。その路線上に、あろうことか郊外へ移転したばかりの高校がありました。ですが、この時にはもう古い校舎は壊されて更地になっています。そこで仕方なく校舎を建て直すことになったのですが……。ちなみにこの時もトンネルが、計画の変更とほぼ同時に新たなる場所に掘り進められます。建設に時間がかかるのですから、当然のことなのかもしれませんけど。
 更に最近になって、また路線が変更されました。街の郊外を通っていた私鉄が廃止されたので、その廃線を利用しようと思ったからでしょうか。現在の路線計画ではバブル期に計画された路線に近くなっています。これに伴い、高校の再移転は取り止めになりました。その時にもう新しい校舎を建てていたのかは知りません。それとバブル期に計画した路線に近いと言っても、新幹線の駅は在来線の駅の数百メートル南側。当然、駅の先にある掘りかけのトンネルはそのまま利用できず、横に掘り直されることになりました。
(この色の部分は、ウワサないし私の考え等による補足です)
 
 以上が私の知っている、某市における北陸新幹線の相継ぐ路線変更の話です。あるBBSの書き込みに似てますね。と言うか、別の所で同じことが……は考えたくないので、たぶん同じことだと思います。(苦笑)
 相継ぐ……と言っても、私の知っている某市の話は、四半世紀にわたる長い期間です。でも、何度も計画が変わり、トンネルが掘られたのは事実です。いったい何本のトンネルが掘られたのか気になりますけど。なお、他にも問題点が書き込まれていましたけど、その部分に関しては私はまったく知らないのでコメントを控えます。
 さて、この話を聞かされたら、どのぐらいの人が信じるでしょうか。たぶん私も身の回りにそういう事件(?)がなかったら、いくらお役所がいい加減でも、そこまでは……と思うでしょうね。かと言って、発信者をウソツキとは思わず、それよりもウワサに尾ひれが付いたと感じるぐらいでしょうけど……。
 まあ、それはともかく、この執拗にウソツキ呼ばわりする人が実は工事関係者だったら……と考えたら、なんか笑えない気分になります。考えなくても十分に笑えない話ですけど。
 
苦し紛れに話を作らなくても……(信じられない話は全部作り物?)
 これも上と同じで《ネット情報=ウソが多い》という思い込みから、知らない話、信じられない話に対して無視を決め込むものです。
 似たところで、ネット上にある小説の書評の中に、時々「変な造語」を非難するものがあります。ところが、その中に造語ではなく、辞書や事典に載っている言葉が挙がっていることがあります。自分にとって知らない言葉だから苦し紛れに作った変な言葉。そういう思い込みがあるのでしょうか。
 まあ、物語ではなく言葉の部分を叩くのは、小説が気に入らなかったけど具体的な点を指摘できず、まさに苦し紛れでしょう。
 
 これは私が学生時代に言ってバカにされた話です。
 ある話の中で寒さを「つららができないぐらい寒い」と表現したのですが、これを聞いた人たちが一斉にバカにしてきました。
 しかし、これは事実です。
    屋根に雪が積もる⇒屋内の暖房で屋根の雪が融ける⇒雪解け水が軒まで流れてつららになる
    屋内の暖房でも雪が融けないほど寒い⇒雪解け水ができないからつららもできない
 こう考えると、一見自分の常識に反することでも真実かどうかを判断できるでしょう。
 それにしても理学部物理学科の学生なのですから、事実かどうかを科学的かつ冷静に考えて欲しかったんですけどね〜。ウソだとしてもウケ狙いで話すような内容でもありませんし……。
 

意図的な誤読、改変コピー(最近増えてきた悪質な詭弁)(追記:2009年9月1日)
 前々からあったことですが、最近になって悪意のある誤読や、悪質な改変コピーに遭遇することが増えてきました。たとえば、
    A氏「今年の夏は涼しい」
  → B氏「A氏は『夏は涼しい』と言っている。バカか。夏は一年の中でも暑い季節を言うんだぞ」
 という感じです。
 A氏は今年の夏の話をしているのですが、それをB氏は「今年の」という部分をわざと削り落として、まるでA氏が無知な発言をしたと言って小馬鹿にしてるわけです。
 こういう書いてない行間を勝手な言葉で埋めたり、または肝心な言葉を抜いて、誰かを非難する口実に使う人が増えたように感じます。
 
 また、書かれたこととは別の発言をしたように言ってレッテル貼りをする悪質なケースも目立ちます。たとえば、
    C氏「最近の温暖化をすべて炭酸ガスの影響とするのはおかしい」
  → D氏「C氏は『温暖化などしてない。炭酸ガスも増えてない』と言い張ってる。実際に観測されている事実を無視するバカだ」
 という感じです。
 C氏はあくまで地球温暖化の影響を炭酸ガスのみに求める風潮に疑問を呈しているのですが、それをD氏はまったく別のものに論旨をすり替えて非難してるわけです。
 
 とはいえ、こういう非難で気になることを一つ。
 この非難を発言のあったページのURLなどを貼った上で、堂々とやっている人が妙に目立ちます。
 原文がわかれば内容に目を通せますので、読めば非難が不当であることは明白になります。なので、非難している人は意図的に悪く書いているのではなく、あくまで大マジメに、そして自分の非難に自信があるからこそURLなどを貼っているのでしょう。
 悪質な人はURLは貼らず、原文を都合よく改編したものをペーストして非難しまくりますから。
 つまり勝手に誤読して、勝手に怒ってるだけ……ということになりますが……。
 でも、こんなバカな誤読による不当な非難が目立つというのは、それだけ読解力が怪しい人が増えたということで、困ったことです。
 これも間違った主張で相手を言い負かそうとしてる点では詭弁そのものですけど。
 

最後に
 この詭弁についての考察ならびに用例の収集は、実は気象精霊記本編の6巻から登場した『大自然の会』の首領ブルイス・ストラウスの言動を考え、研究するために始めたものです。
 で、いろいろと調べて考えた結果……。私には詭弁の道は険しすぎますぅ〜。(ToT)ムズカシイヨー