どらごん・はんたぁ
と
すーぱー☆なちゅらる
の
裏話(詳細)
COLUMN
新規:2010年3月2日
このページは2010年より始まった集英社スーパーダッシュ文庫の「どらごん・はんたぁ」と、HJ文庫の「すーぱー☆なちゅらる」に関する詳細な裏話を語るページです。
経緯の説明上不愉快なことも書いてますので、そういう部分を読みたくない方はこの先は読まないでください。
それと改めて「どらごん・はんたぁ」の方を先に書いているのは、出版社の力関係ではないと断っておきます。
出版こそ「すーぱー☆なちゅらる」の方が先になりましたが、企画も執筆も「どらごん・はんたぁ」→「すーぱー☆なちゅらる」という流れでしたので、順番通りに「どらごん・はんたぁ」を先に書いています。
大事なことなので2度書きました。
構想の経緯
最初は某社で企画したものでした
某社から声を掛けられ、企画を立てることになりました。それが2つの物語の始まりです。
企画が決まるまで
声を掛けてきた某社とのやり取りは、冒頭から困難の連続でした。
これが「企画が悪い」という理由であれば、自分の未熟さを痛感させられるところです。ところが某社で企画が通らない理由は「オリジナルじゃない」の一点のみ。これには閉口させられました。
どんなに新しい企画を考えても「オリジナルじゃない」と却下される状態が2か月も続いたのですから、洒落になりません。
そこで「オリジナルとは何か?」と尋ねても、「オリジナルはオリジナルだ」と返ってくるため、一度は暗礁に乗り上げました。
そこで自分でジャンルを含めてゼロから企画を考えることを諦め、某社の担当編集に何を求めているのかを尋ねました。その回答が「学園ファンタジー」でしたので、それが「どらごん・はんたぁ」が生まれるきっかけとなりました。
ところで某社の言うオリジナルって何?
こればかりは明確な回答がないため、推測するしかありません。
考えられるのは、あくまで自社向けに新しい企画を考えて欲しいという意味だったのではないかと思います。
でも、出した企画が新しく考えたものかどうか、編集部に判断できるはずがありません。
そこで最初に声を掛けてから、一定期間内に出てきた企画を「あらかじめ用意されていた(オリジナルではない)企画」と考えていたと想定すると、何となくこの時のおかしな状況が見えてきたような気がします。
なんせ私は最初の1週間のうちに、ジャンルも内容も異なる8本もの企画を送ってしまいましたから、その後に出す企画はどれも8本のどこかにかぶってしまいます。設定の一部とか、世界観とか……。
だから2か月間も、何を送っても「オリジナルじゃない」と言われ続ける状況が続いたのでしょうか。
そして自分から企画を出すことを諦めて編集部に何を求めているのかを尋ねたのも、相手に「ゼロから考えました」というポーズになるために堂々巡りの呪縛から解放されたと思います。
学園ファンタジーの設定が固まるまで
まあ企画は通ったのですが、その後も言葉の通じない状況が続きます。担当編集から返ってくるメールは毎度「内容がさっぱりわからない」と書かれ、そのあとの指摘が意味不明なのですから、毎回、プロット(作中設定とシナリオ)をどのように直せばいいのかで悩まされました。
長く作家をしているうちに、自分のコミュニケーション能力がなくなったのではないか。そう自分を責めてしまうほどの状態でした。
もちろん、言葉が通じなければ意味の確認や単語の定義を求めますが、まったく埒が明きません。
そこで仕方なく数少ない意味の通る言葉から、設定を少しずつ直す作業が続きました。
最初の構想ではジェリーという若い天才女性魔導師のところへ、彼女を師と仰ぐ子供たちが学園に集まってくる話でした。
それを「ジェリーをダブルヒロインの一人にする」「ノルンはツンデレ、ジェリーをヤンデレ」という要求(?)は読み取れましたので、ジェリーを教師から生徒に変え、師となる大魔導師を別に用意する設定に変えました。
他にも出てくる要求に合わせるように、最後のノルンの魔法の暴走も、最初の頃は魔法による大地震で山が崩れて大規模な土砂崩れだったのが、森の動物たちが暴れて襲ってくるとか、召喚魔法で悪魔が出てくるとかいう展開にどんどんと変わったのですが……。
余談ですがやり取りの中で、「清水さんが書こうとしてるのはコメディですか?」という質問には一番呆れました。すでに半年近くやり取りを続けた頃に来た質問です。
シナリオにはギャグからオチまで書いてあるし、「ヒロインは脱がせろ」「恥ずかしがらせろ」「色気は必要だ」「ヒロインの鉄板の造形はこうだ」と、どんどんラブコメ要素を取り入れるように書いておきながら、どうしてそういう質問が来るのかと……。
その点を尋ねると、複数の編集者でチェックしてるので、わからないのは私(清水)の方に問題があると返されました。
だけど、書いてもいない設定やエピソードにダメ出しをしてくるのは、なぜ?
どうして近未来の日本を舞台にした設定が生まれたのか
担当編集との意味不明なやり取りに悩まされ、とうとう半年を越えてしまいました。半年経ってもプロットが通らないというのは異常事態です。
そこで、ふと脳裡に富士見の時に『情報量が多いと理解できない人がいる』という経験則が浮かび、それならばと設定からファンタジー世界という情報量が大きくなる部分を落として、舞台を近未来の日本に変えてみました。
と言っても、ワープロソフトの検索置換機能で固有名詞等を日本風に変えてみただけです。
王家を財閥に変え、魔法を超能力に置き換え、人物名は語感や直訳で適当に変換したため、ジェリー・シムニフェートを霜野千恵理、マキナ・テメリオイを寺尾牧菜と置き換えるなど、かなりいい加減でした。学園の名前もユニベルシタース学園のベルから鈴を連想して、そこから頭に浮かんだ鈴川をもじって珠洲川学園としてましたし……。
当然、中世風ファンタジーをむりやり現代日本に置き換えただけですので、「学園横の川原で野宿とか、学園を武装した警備隊が守ってるって有り得ないだろ」とツッコミたい場面も多々ありました。
ところが、それを送ったところで返ってきた言葉が「格段に面白くなった」「魅力的な設定が多い」と……。
まあ、いろいろと言いたい気持ちはありましたが、あちらがそれで良いと言うので、そこからは日本を舞台にして考え直すことにしました。
もっとも、このあとパッタリと返事が来なくなりました。
そこで催促のつもりで整理して構想を膨らませたプロットを送ったのですが、それにもしばらく音沙汰なし。
そして近未来風に変えてからちょうど1か月経った日に、某社担当編集から久々に返事が来ました。それは長文の罵倒メールでした。
これにより、その出版社との関係は終わりを迎えます。
余談ながらあちらの名目は、「『学園ファンタジー』を注文したのに、それ以外の作品になったから」だそうです。なるほど……。
裏で何があったのか?
某出版社で、どうしてプロットが進まなかったのか。その理由は罵倒メールの中に答えらしきものが書かれてました。
その罵倒メールとそれまでの経緯から考えた推論ですが、彼は私を言い負かして「参りました」と言わせたかったようです。それも短くてキレのある言葉というか、短くてインパクトのある言葉で。彼の考える「カッコイイ言葉」でしょうか?
罵倒メールにはその(短い)言葉を毎回1週間以上考えて返したと書いてあり、それがどうして伝わらないのかと悔しそうに書かれてました。
どうやら初めの頃に「オリジナルの意味」を尋ねたことで彼に「反抗的な作家」という思い込みを芽生えさせ、その後はプロットにはろくに目を通さず、ずっと私を言い負かす言葉ばかり考えていたようです。その後も単語の定義を求めたり、いろいろ確認したことで、なおのこと変な被害妄想から「反抗的な作家」という思い込みを強めたのでしょう。実際に彼から来た罵倒メールの中には「反抗的」とか「編集を信じてない」「見下してる」という単語が繰り返し使われてました。
そんな彼の心情はともかく、返ってくるメールは私にとってはあまりにも意味不明なものでした。あまりにも短い言葉。要するに意味のないキャッチフレーズです。それを延々と続けられるのですから、いつまでも話が進まないのも道理です。
だから当然ですけど、彼のこだわった短い言葉(意味のないキャッチフレーズ)を使わない長文の罵倒メールは、これまでのメールがウソだったようにわかりやすい内容でした。
ここから、これまでの問題がよく見えると思います。
「内容がさっぱりわからない」などと言い出したのは、私を言い負かすことばかり考えてプロットを理解する気持ちがなかったからでしょう。
罵倒メールでキャッチフレーズを1週間以上かけて考えたと書いていますが、罵倒メールではプロットをどう考えていたのかには何も触れていません。せいぜい捨てゼリフとして近未来版に変えたものは面白いと感じたとだけ書かれていた程度です。
とはいえ、それでは編集の仕事にならないので、頭の中で適当な物語を想像したと考えられます。だけど、それはあくまで彼の頭の中で想像した物語です。私が考えたものではありません。なので書いてもいない設定やエピソードにダメ出しをするという変な現象が生まれたのでしょう。
「コメディですか?」と質問してきたのも、何か月も経ってから適当な想像との食い違いに気付いて言い出したのかもしれません。
たぶん、そのような事情でしょう。
要求だと思ったラブコメ要素云々も、どうやらその場の思い付きというか、それっぽいキャッチフレーズに過ぎなかったらしく……。
とはいえ文章はわかりやすくなっていても、内容はあきれるほど独り善がりな罵詈雑言の羅列です。非常に不愉快なものでした。
なので罵倒メールを最後まで目を通したのは、送られてきてから気持ちが十分に落ち着いた2か月もあとでした。
SD文庫での学園ファンタジー「どらごん・はんたぁ」
妙にあっさりと……
某社との関係が切れた直後、上記の企画を他の2つ(海洋冒険物、DNA物)と一緒にSD文庫へ持ち込みました。この時に出したのは近未来版のみでした。
この時に対応に出てきた編集さんが近未来版の企画を見て、内容に疑問を感じたようです。そこで雑談の中で元になった学園ファンタジー版があるという話になり、それを求められました。そして改めて提出したところ、その学園ファンタジー版の企画がもっとも完成度が高いということで、この企画でシリーズを立ち上げることとなります。
それも何か落とし穴があるのかと勘ぐりたくなるほど、あまりにもあっさりと……。
SD版での設定の修正はあったのか
上でSD文庫に持ち込んだ企画は、某社で手を加えていた最後のものでした。
ですが、改めてSD文庫で企画を動かすにあたり、初期の段階の企画に戻して、そこから叩き直そうとしました。いっそのことジェリーを教師とするバージョンまで戻そうと考えましたが、すでに長いことジェリーを学園の生徒として考えていたために、すでに私の頭の中では「ジェリー=生徒」で固定されていました。
そこでジェリーを生徒に変えて以降のプロットで、もっとも気に入っているものを選びました。そこに近未来版で生まれた面白いと感じる要素も盛り込みました。
それをSD文庫編集部に再提出して通ったので、それを元に原稿を書き始めています。
ということなので、実はSD文庫では執筆前にプロットをそれほどいじってません。近未来版から要素を加えた以外には……。
おかげで上と同様、また妙な疑心暗鬼が膨らんで……。(苦笑)
ただし、念のために補足しておきますが、SD文庫の編集さんが何もしてないという意味ではなく、問題点や留意点は執筆の際に直すということで、プロットに関しては修正が入らなかったという意味です。
自分でも設定やエピソードが弱いと感じたところ、流していた設定などを的確に指摘されましたので、ここはすごいかもと……。(汗)
初稿を書き上げたあとで大きな問題になったのは、最後のクライマックスをどうするかでした。
この時のクライマックスは、魔法石を取りに行ったノルンが偶発的に魔竜を召還してしまうというものでした。
しかし、それでは作品の雰囲気が前半と違うということで、この魔竜をどうするかが問題となりました。その解決策が化石です。
それまでは召喚術師の魔力を秘めたノルンと、魔法石=鉱物〜地質学の話を書こうと考えていました。ですが、ここでノルンの秘めた魔力を使役魔法使いにして、化石=古生物の話に切り替えます。当然、召還されるドラゴンも怖いものでは雰囲気が壊れるのでコメディ調に変えました。またノルンが使役魔法を使うエピソードを早いうちに出すために、黒ネコのぬいぐるみも登場させます。
これがSDの最終版となりました。
タイトルについて
最終的なタイトルが決まるまでは、作中世界である「トリモンド」ないし「トリモンドの見習い魔導師たち」を仮タイトルとしていました。
で、いざタイトルを考える段階になって、担当さんからドラゴンが入っていた方がファンタジーっぽいということで、「ドラゴン・ブリーダー」を考えたのですが、最終的に化石掘りから「ドラゴン・ハンター」というタイトルに落ち着きました。ドラゴン・ハンターとは、化石を探し求める賞金稼ぎのことです。化石の中でも賞金稼ぎたちが狙うのは人気の高い恐竜であることから、ドラゴン・ハンターと呼ばれるようになったそうです。ファンタジーっぽい上に内容にも合ってます。
なお、最初はカタカナで決まりかけたのですが、あとで作品の雰囲気からひらがなに変わることになりました。
HJ文庫での近未来版「すーぱー☆なちゅらる」
すべては私の手違いから始まりました
某社から罵倒メールが送り付けられて関係が終わったところで、HJ文庫の担当さんに某社で動かしていた2つの企画(学園ファンタジー版と近未来版)を見せました。ずっと「内容がわからない」と言われ続けたので、本当にわけのわからない企画なのか意見を求めるつもりでした。
ところが、ここで思わぬ事態が発生します。担当さんがこの企画を企画会議に流してしまい、なんと通ってしまったのです。
企画を見せて意見を求めようとした時に「これは企画提出用ではない」と一筆しておくのを忘れた、私の大失敗です。
あちらも忙しいのですから、口頭で伝えただけのことを一々憶えてられませんものね。
不幸中の幸いはSD文庫とは違って、HJ文庫では私の本領発揮を望むということで近未来版の方を選んでくれたこと。ということは好き勝手に暴走しても、編集部的にはOKですか?
とはいえ企画会議を通ってしまったために、事情を説明しても他の企画へ変えてもらえませんでした。しかも内容にも大きく手を加えることができなくなり、さて、どうしたものかと……。
それに近未来版をやるとは思っていませんでしたから、この近未来版で面白いと思ったエピソードを、「どらごん・はんたぁ」の方でどんどん流用して使ってしまいました。その「どらごん・はんたぁ」の初稿が書き上がったあとでの決定でしたので大慌てです。
私としては一緒に出した「くじびき」の未来編か、他の2作品(夢物、孤島学園物)だと思っていましたから……。
当然ですが特殊能力の設定もまったく考えていません。それなのに「くじびき」のままの刊行スケジュールで進めるということが決まっている上に、新シリーズなので締め切りは準備のために1か月前倒し。
という中での見切り発車でしたから、まあ、何といいますか……。
頭の中でキャラが出来上がってない上に「どらごん・はんたぁ」キャラとの混乱が起きて物語が動きません。それでもページを埋めなくてはと考えてるうちに、つい説明エピソードでその場をしのいでしまったというか……。
余談ながらクリスの設定は、上に書いた夢物(オタクという設定)、孤島学園物(キャラの名前)から流用しました。クリスだけは設定を丸々変えても影響がなさそうでしたので、そこからいろいろなエピソードを流用というか……。
取り敢えずは発売されたものがHJの最終版です。(何も言わないで)
とはいえ構想がないままスタートしてしまったシリーズなので、2巻以降も方針が決まるまでは迷走が続くかと思います。
うう、どうしよう……。
SNPについて
最初は上で書いてきた通り、魔法を超能力に置き換えただけです。そこにどんな理屈を付けるかは、まったく考えていませんでした。
唯一、書き始める前に決まっていたのは、SNPという名前です。
これも企画が通った時に担当さんから「超能力のままでは陳腐」と言われ、いくつかの候補の中から「神通力」の英訳である「Super Natural Power」を略したSNPを考えたという程度。ついでに学園の名前が「神通学園」なのも、ここから来ました。
そして、この時点から作品タイトルを「SNP」ないし「SNP 〜Super Natural Power〜」と仮決めしていました。
さて、SNPの中味ですが、原稿に取り掛かった時にはまだ具体的な構想は何も決まっていませんでした。さすがに、それでは何も書けないため、「どり〜む・まいすたぁ」で考えていた能力を元ネタというか下地にします。夢と現実が相互作用を及ぼすという着想で考えていた、「3次元よりも高い次元で作用する能力」です。
まあ、話を進めるうちに「どり〜む・まいすたぁ」で考えていた単純な高次元に素粒子論等が入り込んで、どんどんと掛け離れていきました。そして初稿を大きく書き直す際に、想像力が力を発揮するという構想を捨てて純粋な物理現象としたので、これで「どり〜む・まいすたぁ」で考えていた能力とは完全に別物となりました。
こちらも、これからどんな理屈へ変わっていくのでしょうね?
私にもわかりません。無責任ですけど……。
タイトルについて
上にも書いた通り、仮決めしたタイトルは「SNP」ないし「SNP 〜Super Natural Power〜」でした。
ところが企画会議で「SNP」では短すぎる、反対に「SNP 〜Super Natural Power〜」では長すぎてロゴに困るという意見が出てきたそうで、タイトルをひらがなで「すーぱー・なちゅらる」と修正するように求められました。
すでにSD文庫の新シリーズがひらがなタイトルに決まっていたので避けたかったのですが、最終的な落とし所として「すーぱー☆なちゅらる」に決まります。中黒「・」を星「☆」にしたのは、せめてもの差別化ということで……。
余談ながら実際にロゴを作った時、「あれ? ひらがなでも長すぎない?」ということがあったそうですが……。
それはともかく、「あんてぃ〜く」といい、「どり〜む・まいすたぁ」といい、私の作品のイメージは「ひらがな」なのでしょうか?
自分では一度も「ひらがなタイトル」で企画を出したことがないのに……。
でも、提案されると強く拒否できない私もいるわけで……。(嘆息)