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公開:2018年3月14日 更新:2018年7月15日

小説史〜時代の周期性を考える

時代の類似性〜創作の時代は終わった?
 リーマンショックの少し前、2007〜8年頃から、
  「もう創作の時代は終わった」
 という言葉を何度も聞くようになりました。
 小説でも、マンガでも、アニメでも、それからJ-POPのような歌謡曲でも、あらゆるエンターテインメント分野で創作され尽くされ、
  「もう新しいものは出てこない」
 とまことしやかに言う人までいます。
 でも、これと似た言説は今から四半世紀前、1980年代の後半〜1990年代初めの頃にもありました。
 当時も現在と同じように、あらゆるエンターテインメント分野が行き詰まりを見せていました。
編集者や評論家など業界関係者(クリエーター以外)による発言の類似性
 1980年代後半、関係者から
  「もう新しいものは生まれない」
  「これからクリエーターになる人は大変だ。もうすべて創作され尽くされたのだから」
 という発言が出ていました。
 最近も2008年頃から、
  「もう創作の時代は終わった。これからは著作権管理の時代だ」
  「物語のパターンは、すでにギリシャ神話ですべて創造され尽くされている」
 という発言が、関係者から出ています。
再放送、リメイク、続編の急増
 2005〜6年頃から、過去に成功した作品のリメイクや続編の制作が増えていると感じないでしょうか。特にそこから10年過ぎた2016年からは顕著になったように感じます。
 四半世紀前にも似たような動きがありました。そして同じ声優を起用するという露骨なまでの二番煎じ作品まで出てきて……。
周期が生まれる理由
 クリエーターの視点からは、まず創造に行き詰まりはないと断言します。本当のクリエーターなら、誰もが機会さえあれば発表したい野心作を1つか2つは持っていると信じています。
 でも、間に入る出版社やテレビ局などのコンテンツ会社が、そういう気持ちに「待った」を掛けます。
 こうなる一番の理由は古い時代を牽引してきた組織が、強い成功体験を元に守りの姿勢に入るからでしょう。そもそも組織ですから、一度成功するとそれとは違うことを認めない空気ができて、どんどん硬直化する悪循環に呑み込まれます。要するに、
旧ムーブメントの行き詰まり → 衰退
新興勢力の登場 → 試行錯誤 → 当たり作品の登場 → ムーブメントの方向性が固まる → 硬直化、行き詰まり → 衰退
次の新興勢力の登場 → 試行錯誤 → ……
 というサイクルです。これが最初に語ったように、25年±5年の周期でまわっているように感じます。
今はコンテンツ不況の時代
 今は出版不況と言われますが、それはムーブメントとはまったく関係のない時代の変化です。
 平成不況が始まったあとも、出版界全体の売り上げは1996年まで伸びていました。
 ところがこの直前、大手取次店が「経営のスリム化」と称して自社倉庫の在庫管理をやめるという間違ったコストカットを始めました。それまでどんな本が何冊あるか管理していたのを、出版社ごとに箱に詰めてまとめるだけにしてしまいました。そのため消費者はそれまでは書店に注文すると関東近郊で5日ほど、全国でも10日以内に手に入っていた本が、関東ですら半月から1か月は待たされるという不便を強いられるようになります。それまで手作業でやっていたサービスが、情報処理システムの導入で悪化するという時代に逆行するものです。
 これは出版社にとっても問題でした。取次店が自社倉庫を管理しないため、書店から受けた注文はそのまま出版社へ行くようになります。それで売れてると勘違いした出版社が増刷して大量の売れ残りを作る被害もありましたし、注文が来てもPOSの普及で数字から取次店の倉庫にあると予想されると、出版社が動けるのは取次店から本が戻ってきて在庫数が確定してからです。
 この不便が積もり積もって出版界の機会損失となり、今の出版不況を招いたのでしょう。
 そこにアマゾンなどの宅配ビジネスが入ってきたのですから、一気にそちらに客を奪われることになります。
 2018年春。ようやく根本的な原因に気づいた取次店が在庫管理を再開し、書店ごとの細かなニーズに応えようとしますが、もう何もかも手後れのように思います。
 
 しかし、この動きはライトノベルを初めとするコンテンツ市場の不況とはまったくの別物です。
 なんせ出版界にとっての売り上げのピークは、コンテンツ市場にとってはようやく前の不況期から立ち直りかけた時の話。世間がライトノベルを新しいムーブメントと認めるのは、それよりもあとになりますので。