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公開:2018年3月14日 更新:2018年3月14日

プロットのサンプル(復元版)
くじ引き勇者様
(最終確定は「くじびき勇者さま」)
要旨
 魔法のある異世界。内燃機関は未発達だが、水力技術で20世紀初頭レベルまで発達した社会。
 くじびき原理主義のソルティス教によってまとめられた帝国で起きた物語。
 この世界で火病と呼ばれる奇病が再発生する。数百年前、文明を崩壊させた死の疫病だ。
 神託により、その謎を探って解決する勇者と従者が立てられる。
 勇者は帝都へ近衛隊志願にきたくじびき原理主義の剣士。従者はシスターなのに科学オタク。
 この2人がくじびき任せ、運任せで冒険(異世界の遊覧?)を続けて問題を解決するコメディ
   *補足:「火病」はネーミングに問題ありと指摘され、ラテン語で「デスペラン」を採用。
       最後の「コメディ」は、サンプル用に書き加えたもの。当時はわざわざジャンルを書いてなかった。
主要キャラ
ナバル=?  (補足:この時点では全キャラの名字は未確定だった)
 近衛隊の採用試験で帝都まで来た若者。近衛隊幼年部で剣技を学んだ経験あり。魔法は使えない。
 脳筋。くじびき原理主義の剣士。勇者に選ばれたことを天啓と信じ、やる気満々で旅をする。
 ただし、脳筋なのは戦いや作戦の立案面だけで、それ以外は謹厳実直で地頭も悪くない。
   *補足:最初はナバルが主人公だったが、書いているうちにメイベルの方を主人公に変えた。
メイベル=?
 くじびきを神の意思と考えるソルティス教の修道女。修道院では調理担当。かなりの魔法の達者。
 だが、くじびきで修道女に選ばれたことを恨み、反動で科学に傾倒した反くじびき主義者。科学オタク。
 修道院で調理担当になったのも、朝食の支度で朝の礼拝に出なくて済むという理由から。
 得意分野は薬草学(生物学)と機械工学。困った事態に陥ると、「くじびきなんか大キライ!」か口グセ。
 魔法と調理の腕は高い。頭はいいが、肝心なところで大ポカをやらかして危機を招いてしまう。
パセラ=?
 メイベルの親友でぼーっとした子。メイベルの愚痴の聞き役。
 実は皇帝の娘。修道女生活と親が皇帝であるため世間知らず。
   *補足:メイベルに薀蓄を語らせ、読者に設定を伝える役回りとしてよく機能した。
       皇帝の娘という設定は1巻で使わなかったため、のちに別のキャラ(レジーナ)に分ける。
皇帝
 野心家。実は騒動の裏でいろいろ画策していた。
   *補足:完成時には存在が消えた。代わりにソルティス教の教皇が皇帝役となり、悪役の権力者としてビーズマス卿が生まれる。
ドラゴン
 帝国にとっては脅威の生物。圧倒的な強さと魔力を持つ存在。
 本当は平和主義で人語を話せるのに、帝国を西へ拡大しようとする皇帝の野望にとって障害となっていただけ。
   *補足:設定時はまだ具体的な構想はなく、ファンタジーにありがちな火を噴くドラゴンにすぎなかった。
社会設定
水力社会
 水力を主要動力とする社会。化石燃料はいっさい出さない。燃料もバイオマスエネルギー。
 水力利用のために都市は山の斜面に築かれ、街の地下に動力用の水路が何本も通る。都市災害=ほぼ土砂崩れ。
 平地には動力用の水道橋が何本も築かれ、街中で水が落ちて水車を回している。不足分は風車等を利用。
 この動力で、大型冷蔵庫、水力鉄道、エレベーターなどの機械が動き、一部は発電でアーク電灯が輝いている。
 蒸気機関もあるが、大型のために船を動かしている程度。陸上では燃料がいるため普及していない。
水力鉄道
 水車で道路の下でロープが循環している。列車はそのロープを掴んで前進する。
 動力が水力である部分以外は、ロスアンゼルスのケーブルカーと同じ仕組み。
 他につるべ式の登山列車(運河エレベーターの応用)もある。
軍事レベル
 魔法と剣が中心。魔法も剣も使えない者が銃を使い始めている。
 普及銃にはライフリングがないために命中率が悪く、80mも離れれば厚手の布で防ぐことが可能。
 ライフリングは最高軍事機密なので軍隊の正式銃のみ採用。反乱軍に強い武力を持たせない意味もある。
 運河を移動する砲船がある。技術はあっても戦争が少ないため軍事レベルは停滞。
 
ソルティス教
 くじびきを神示とする宗教。受験や就職を含め、あらゆる場面でくじびきが行われる。
 くじびきで人生の進路が決められ、その中で努力が求められる社会。
 くじ運が強いとされる人たちが神官となる。
ドラゴン教団
 ソルティス教と対立する宗教。ドラゴンを崇拝する古代宗教。
 一部は反帝国の人たちのより所となり、ならず者集団になっている。
 ドラゴンを恐れるあまり、ドラゴンが人語で話しかけても会話が成り立たない。すべて天啓扱い。
帝国
 ソルティス教と水力技術で周辺地域を呑み込んでいった文明。
 領地内には網目のように運河を張り巡らせて物流を活発にし、経済力を高めている。
火病 (発表時は「デスペラン」)
 帝国で起きつつある謎の奇病。発病した人は全身に火ぶくれができて焼けただれていく。
 先史文明を崩壊(実態は衰退)させた原因と言われるため、パンデミックが警戒されている。

 

物語(第1巻)
第1章 救世の旅に出るまで
 主人公のナバルが近衛隊採用試験のために上京。だが、受験のくじびきで不合格になった。
 落胆したところを救世のくじびきに誘われ、勇者となる当たりくじ(貧乏くじ?)を引いてしまう。
 従者は修道院内から選ばれ、修道女メイベルが選ばれる。火病発生を最初に気づいた若き学者。
 ナバルは勇者に選ばれたため、最初から近衛隊小隊長扱いなのに大満足。不合格はこのための天啓と前向き。
 メイベルは火病の脅威に気づいた張本人。周りからは、まさにくじびきの天啓と見られるが……。
 本人はくじびきを認めたくないから、理屈をつけて逃げようとする。とにかく往生際が悪い。
 そしてメイベルは覚悟がつかないまま、帝国を救うための救世の旅へ出るハメになった。
 
第2章 妨害者の出現
 ナバルたちが救世の旅に出たことを聞きつけ、帝国を倒すチャンスとするドラゴン教団が動く。
 帝国は圧倒的な力を持つドラゴンを恐れ、棲息地である西の山脈に何度も軍隊を送って駆逐しようとしていた。
 そのドラゴンを神とするドラゴン教団にとっては、ドラゴンを倒そうとする帝国はまさに敵。
 しかもドラゴン教団は、ナバルたちの救世の旅がドラゴン退治と思い込んでいた。
 ところがナバルたちが行き先をくじびきで決めるため、うまく先回りできない。
 移動は運河を利用こともあるため、途中で互いの乗る船がすれ違うことも。運河エレベーターでの坂の昇り降りとか。
 待ち伏せは失敗するが、ある町でついに追いつき、ナバルと戦うことになる。
 この戦いの直前、ナバルとメイベルはくじびきは是か非かで言い合いをしていた。
 そこで皮肉交じりで今日携帯する武器をくじびきで選ばせ、ナバルはフライパンを腰に下げていた。
 くじびき原理主義のナバルは、これが天啓とフライパンを持って勇んで戦う。
 反対にくじびきをけしかけたメイベルは、猛省して剣で戦うように言うが、聞いてくれない。
 だがフライパンは厚いので銃弾を跳ね返す盾になる。火炎魔法も防げる。打撃も可能。有効な武器だった。
 メイベルも魔法で応戦。剣技に勝るナバル同様、メイベルも敵の魔導師より術使いに長けていた。
 おかげで戦いが長引き、街の治安軍が駆けつけてきたことで敵の撃退に成功する。
 戦いのあと、ナバルは宣言する。「見たか。くじびきは絶対だ!」
 
第3章 最初に病気のあった村に
 くじびき任せの旅だったが、ナバルたちは火病が最初に報告された村に到着した。
 ドラゴンの棲む山のふもとにある村。ここはドラゴン教団のアジトの近くでもあった。
 ついにナバルがドラゴン退治のためにここまで来たと警戒するドラゴン教団たち。
 その村にはドラゴンと戦う要塞が作られていた。だが、ドラゴンとの戦いの跡が残る。
 しばらく前、ドラゴン制圧のために軍団が山に登り、壊滅させられていた。
 その要塞にある教会で、ソルティス教の神託が行われる。
 
 その信託で出た神示で山に登ってドラゴンと火病の件で話し合えと出て、メイベルは頭を抱える。
 山に入ると、そこはドラゴン教団のテリトリーだ。
 さすがに要塞や軍団は襲えないが、教団はたった2人の勇者一行ならばと、すぐに襲ってきた。
 拠点だけに魔法の使える教団員も出てきて、ナバルはたった2人で教団を戦うハメに。
 当然、傷つき倒れる。それをナバルは「武器をくじびきで選ぶ暇がなかったのが敗因」と。
 
第4章 原因は山にあり
 そこにドラゴンが降りてきた。ドラゴンは人語が話せた。
 さすがに攻撃されれば戦うが、平和主義で戦いを好まない傾向がある。やめさせるための飛来だ。
 畏れ多く、教団員たちはドラゴンの前でナバルたちにトドメを刺せない。
 一方でナバルはドラゴンが人語を話すと理解し、会話を試みる。
 帝国の送ってきた軍団の将軍は、メンツか幻覚と思いこんでるか、話しかけても対話に応じない。
 ドラゴン教団員たちも、ドラゴンに畏敬の念を向けるあまり、まともに対話できなかった。
 メイベルも常識に囚われていたが、くじびきをご信託を信じているナバルのお陰でおかしな常識を壊された。
 ようやく対話できる相手の登場に、ドラゴンはナバルとメイベルに興味を持つ。
 ナバルが火病について聞くと、ドラゴンは長老に合わせてやると2人を連れて山へ戻った。
 山頂の高原に着くと、メイベルの目には一目瞭然。そこにある光景そのものが火病の原因だった。
 ドラゴンの作った巣が、風の流れを変えてある植物の変異種を生み出している。
 科学知識の豊富なメイベルは、その花粉病の症状が火病に似ていることを知っていた。
 それを聞いたドラゴンの長老が、部下たちに原因となった巣を壊すように命じる。
 実はドラゴンたちも花粉症による咳と鼻水には悩まされていた。だが、それが花粉症とは気づいてなかった。
 問題解決のあとドラゴンの長老は、ナバルとメイベルに帝国とは友好的に付き合いたいという伝達役を願い出る。
 
最終章
 問題を解決して帝都に戻ったナバルたち。報告を聞いた皇帝は2人を神として讃えると言い出す。
 英雄の存在は国を傾けかねない。ドラゴンの存在も同じ。口封じに2人を消そうとする皇帝。
 その目論見を知り、ナバルとメイベルは大慌てで逃げ出す。ここから2人の逃避行が始まる。

 

第2巻構想
 くじびきに従って南へ逃げる2人。そこは戦争が多く、城壁都市が点在するポリス国家状態。
 そのうちの一つは城壁の上で蒸気機関車が走っていた。その都市の市長は発明家だった。
 燃料は城壁のお堀で栽培される浮草を絞った汁。水に浮くため、油分が多い。
 市長と意気投合するメイベルは、次々と新兵器を発明する。目的は帝国の追撃から身を守るため。
 ナバルは逃避中のメイベルの金遣いの無計画さに頭を抱えていた。この機会に簿記・経理についての勉強を始める。
 この結果、ナバルは不正経理を次々とあばく大活躍をする。国家管理は財政が基本だ。
 それで管理された軍事研究費で、メイベルが武器開発をする。それの開発力に圧倒された周辺国が、次々と併合されていく。
 そのおかげで南部地区に平和が訪れ、ナバルは都市国家連合国の大統領に、メイベルは開発大臣に祭り上げられてしまう。
 おかげで存在が帝国に知られることになり、また2人は大慌てで地位を捨てて別の地へ逃げていく。
   *補足:発表時、城塞の上に見たのは蒸気機関車ではなく偵察用のグライダーだった。
       バイオ燃料も浮草ではなく、プランクトンの珪藻を絞った珪油というものに変わっている。
第3巻構想
 帝国から所在不明となったナバルとメイベル。
 実はくじびきに従って逃げた結果、帝都の近くにある田舎町に移り住んでいた。
 そこでメイベルの薬草学の知識と料理の腕を生かして医食同源の小料理屋を開いて暮らす。
 ナバルは逃げる途中で身に付けた簿記(三式簿記)を使って経理担当としての腕を発揮し、お店を繁盛させていく。
 もちろん、2人とも偽名を名乗っている。そのせいもあるのか灯台下暗しで気づかれない。
 そこに病気になった皇帝のためにと噂を聞いてやってきたパセラと鉢合わせになり……。(ここまで)
   *補足:三式簿記は、現在学者たちが実用化のために頭を悩ましている実際にある簿記技術。
       複式簿記は力学におけるエネルギー保存則だが、時間成分がないために、その時の状態しか表せない。
       三式簿記は簿記に時間成分を取り込み、経済の動きをもっと科学的に表そうとする試みである。

 

全体補足
 このあと、補足メモで魔法の設定と化石燃料を使わない技術を細かく何枚も羅列していた。
 発表時にはプロットの第1巻が第1部(1〜3巻)、第2巻が第2部(4〜7巻)となっている。
 この作品、長らく第3巻の累積刷り部数が一番少ないため、ここを増刷しないと後ろの巻が動かないと申し入れていた。
 結局、7巻発表時になっても増刷がなく、3巻を底に4巻、5巻、6巻と部数が増えていく不可解な状態が解消されないため、ここでシリーズを終えようとしていた。
 だが、この時に営業から「増刷するから第3部を進めるように」と要求が出てくる。
 そこで第3部となる8巻以降はプロットの第3巻で進めようとしたが、営業からの横槍で成功した第2部をインフレさせる内容になった。
 この頃には営業が力を持つ現象が顕在化し、編集部が抵抗できなくなっていたように感じる。
 そして、この時の申し入れが遠因となり、11巻でいきなり打ち切りにされるトラブルが起きている。
 なお、この時になっても約束の増刷は行われていなかった。それどころか最後の11巻の初版部数も、3巻の累計部数を上回っていた。